羽仁未紗 VIVA OPERA 8
「サロメ」はもっとも上演しにくいオペラのひとつではないだろうか。
ユダヤの王ヘロデの館。ヘロデには、弟の妻を奪い、妃にしたヘロデスと連れ子のサロメがいるが、こうした結婚を不道徳だとそしったキリストの弟子ヨハネ(ドイツ語なので、ヨカナン)が捕えられ、地下牢につながれている。
大切な来客があり、ヘロデは義理の娘サロメに踊りを披露するように命じるが、義父を嫌っているサロメは応じない。
仕方なくヘロデは、踊ってくれたらお前の望むものをなんでも与えようといい、それならばと踊って見せたサロメは、見事に踊り終えたのち、母ヘロデスにそそのかされ、約束の褒美に地下のヨハネの首を盆に載せて持ってきてほしいという。
仕方なくヘロデは首切り役人に命じてヨハネの首をはね、盆に載せてサロメに与える。
この、聖書に描かれたエピソードをオスカーワイルドが、実はサロメはヨハネに恋していたが相手にされずに苦しんでいた、というように脚色し、おどろおどろしいドラマに作り上げ、それをドイツの作曲家ミヒャエル・シュトラウスがオペラにしたのが「サロメ」。
ヨハネの生首にうっとりと口づけるサロメの姿など、いかにも世紀末風な不道徳な官能美、そしてそれに即した不協和音を多用した旋律で非常に優れたオペラなのだが、上演機会は驚くほど少ない。
あまりにも不道徳なストーリーもさることながら、容易には上演しにくい事情もある。というのは、ほとんど歌いっぱなしともいえるサロメは、同時に延々と踊り続ける「七つのヴェールの踊り」もこなさなければならず、しかもこの踊りは舞いながら1枚づつ衣装を脱いでいくいわゆるストリップティーズ。
歌ばかりではなく踊りの巧みさや、15、6歳という設定なので若く美しい肢体までが要求される。
さらに、十数年前に当時ほとんど無名だったギリアン・ナイトが「七つのヴェールの踊り」の最後に完全なヌードになってすっくと立ちつくすという姿を見せて以来、サロメ歌手は全裸にならなければならないという不文律ができてしまった。
それまでは薄絹をふんわり身にまとうことでなんとかごまかしてきたプリマドンナたちも、これでは出る幕がない。
少女体型で踊りがうまく当然歌唱力もあって、オールヌードをさらす覚悟もあって、といった歌手などそうそういるわけがない。というわけで、われわれの「サロメ」を観る機会はますます奪われているのだ。
一幕ものなので、休憩時間がなく劇場の営業上も都合が悪いといった事情もあるのかもしれない。
