羽仁未紗 VIVA OPERA 7
『リゴレット』は、救いのない物語だ。暗く、悲しく、愚かで、まるで救いがない。観終わって帰る観客たちの表情は、例外なく暗い。こんなことでいいのか、という不条理感にあふれている。客たちがこのオペラの心を理解していれば、の話だが。
『アイーダ』『ナブッコ』など、気宇壮大な歴史大作を送り出したヴェルディが、なぜこうした人生を否定するような作品を作ったのか、大いに考えさせられるものだが、しかし同じヴェルディの『イル・トラバトーレ』も限りなく暗く、救いのない作品で、これもヴェルディの一面なのかもしれない。
16世紀の北イタリア、マントヴァの公爵に仕える初老道化師リゴレット。公爵におべっかを使い、公爵のためならどんな卑しい仕事もする賤業のひと。好色な公爵のために気位の高い貴婦人をだまして寝室に送り込んだり、卑屈に生きていたが、そのリゴレットも自分の大切な娘ジルダに公爵が魔手を伸ばそうとしていると知ると許せるものではない。娘を公爵の目から隠そうとするが、ジルダは、親の心子知らず、公爵に恋するようになっている。
公爵とジルダは、町はずれのあいまい宿での逢引きを企てるが、それを知ったリゴレットはあいまい宿の主で犯罪者の兄と妹スパラフチレとマッダレーナに頼んで公爵を殺害しようとする。
ところが、公爵を愛してしまったジルダ、公爵をこれまた好きになってしまったマッダレーナの思惑などが重なり合って、結果は公爵に代わってジルダが殺されてしまうこととなる。残るのは、道化師リゴレットの悔やみきれない後悔と大きすぎる悲しみ。
この物語は実話ではないので、ヴェルディの心の中から生まれたものに違いないが、マントヴァの街に行ってみるとそのわけもわかるような気がする。
マントヴァは古い街だが、3日もいると隅から隅まで知ることができるほどの小さな街でもある。
ポー河が作った大きな湖に町の3方を囲まれ、そのため冬は暗く冷たく、夏は蒸し暑く空気が重い。このような気候の石畳の街では、こんな事件も起こるかもしれない。
マントヴァの街中に、リゴレットの家、があり、道化師の像が建てられているが、このような自慢にもならない話でも観光名所にしようとする現代市民の心が、またマントヴァ的といえるかもしれない。
劇中、公爵が繰り返し歌う「女心の歌」、
風の中の羽根のようにいつも変わる女心
暗いオペラにあって唯一心弾ませてくれる調べだ。それだけに忘れられない。ヴェルディ、うまい。

