羽仁未紗 VIVA OPERA 4
このオペラももう何回観たか数え切れないほど。ジュゼッペ・ヴェルディには名作と呼ばれる作品が数多くあるが、中でも『トラビアータ』は世界中で最も多く上演されているのではなかろうか。その意味で、定食中の定食、といってもいい。馬鹿にしているのではなく、それだけ多くの人に愛されている、ということ。
しかしこの作品、1953年にヴェネツィアのフェニーチェ劇場で初演を迎えたのだが、聴衆からも批評家からも激しいブーイングを受けて、歴史的な大失敗作とまでこき下ろされた。 
同じように初演を大失敗で迎えたオペラに『蝶々夫人』と『カルメン』があるが、この3作品とも、のちに世界的名作と呼ばれるようになったのは偶然というか、皮肉というか。
『トラビアータ』がなぜ初演からブーイングを受けたか。ものの本によると、初演に出演したプリマドンナがあまりにも太っていて、どう見ても結核で死んでいく薄幸のヒロインには見えなかったからだそうな。
これは面白い、というか、歴史を感じさせる裏話で、昔からというより、つい最近までオペラのヒロインは大体でっぷりと太って、相撲取りのような見事な体型の女性が多かった。男声歌手のほうは、多くがにやけていやらしいジゴロタイプが多く、こんなことから“テノール馬鹿にソプラノぶす”などと笑われていたのだが、本人たちもそのことをほとんど気にもしなかった。
あるプリマドンナが、年を重ねるにしたがってあまりにも激しく太ってきたので、多くのファン、マスコミが、なんとかならないものか、といったところ、当人はけろりとして、
「大丈夫ですよ。わたしはちっとも気にしていませんから」
と答えたという。
しかし、今ではオペラ歌手は歌唱力、演技力だけではなく、容貌にも責任を持つべきだ、という”常識”が広まり、私たちもあまりにもひどいヒロイン、ヒーローに出会わずにすむようになった。
『トラビアータ』初演の失敗のエピソードを聞くたびに、いまの時代に美しくも悲しいヴィオレッタの出会えることを感謝したくなる。
『トラビアータ』は、失敗作として生まれ、名作へと変身したのです。
(各イラストはクリックすると大きくなります。)
