WEEKENDLESS 17
ソバ・イタリアーノ・ア・ラ・セタガヤ
おいしいものを食べるのが大好き。作るのも好き。そんな大切な趣味のひとつである料理について考えてみる。
“料理”という日本語から見てふたつに分かれている。 “料”と“理”。
“料”は文字通り原料、材料。すなわち素材で、“理”は理論、理屈。そこにある素材をいかに作り替え、おいしい食べ物に昇華させるかのテクニック。
“料”だけでも“理”だけでも成りたたず、ふたつがうまく調和して初めて食べ物となるのだが、そのバランスが問題。
世界中のおいしい食べ物とされている料理でも、素材のおいしさ、新鮮さを生かした、“料”が勝った代表的なものが日本料理、さらにはイタリアン。刺身、寿司などはまさに“料”そのものだし、そこいらの草を皿に載せただけのようなイタリアンサラダもそう。
反対に、材料にこれでもかとばかりに手を加え、もとの形がわからなくなるまで飾りたて作り上げる代表がフレンチであり中華。山海の珍味に恵まれたお国柄と、遠くから運んでこなければならない地方の宿命的な違いともいえるが、どんな食事でも、おいしければすべて好きという私でも、あえていうならイタリアン、となるのは日本人ゆえの味覚からなのかもしれない。
と、理屈をこねまわしてみたが、要は大好きな“和”と“イタリアン”が見事に合致した一品を紹介しようというわけなのです。
京王線は千歳烏山駅近くに“そばきり典座”という和そばの店がある。“典座”は“テンゾ”と読んでほしい。この店で夏季限定で供されるのが“とまとそば”。和そばにミョウガ、キュウリ、オオバなどを散らしトマトソースであえ、半熟玉子をトッピングした冷やしそばだが、石臼で挽いた蕎麦粉十割の生そばに、あくまで洋風のトマトが不思議にマッチして、まさに感動的な味覚といえる。
初めてこの“とまとそば”を食べたとき、私は心に叫んだものだ。
「このひと品を、ソバ・ポモドーロと名付けよう」
それからというもの、私は夏になると週に一度は“典座”に通っている。
“そばきり典座”は、私が日本に帰ってくる前、5年前の開店。帰国して世田谷に居を構え、近くにおいしい食事処を探しているときにある同業者に教えられて、それ以来のごひいき。若い主人の安藤さんが、私も2、3回は行ったことがある修善寺の名店”朴念仁”で修業を積んだとは、通い始めて知ったことだが、そばはさすがのもの。だが“とまとそば”は、安藤さんの考案によるものだという。若さゆえの秀逸なアイディアであろう。
こうして得意げに書いてはいるが、実は内心痛し痒しなのだ。というのはこの“とまとそば”、夏季限定というばかりではなく、いいトマトが入らないときは作らない。口コミ人気で遠くから食べに来るひとも多く、「すみません。品切れです」となることも多い。だから本当は内緒にしておきたいし、同時に多くのひとに知ってほしいし、と、私はハムレットなのだ。
だが、書いてしまったものは仕方がない。電話(03・3309・6754)で“とまとそば”の有無を確認してから出かけるように。
ということで、“ソバ・ポモドーロ”を食し終え、幸せな気分の中、ふっと思った。この“とまとそば”のトッピングに、いか、たこなどのシーフードを加えたらどうだろう。まるで違う食感になるだろうが、それはそれでさらにイタリアンなおいしさを生むのではないか。
そこでふつか置いた昼下がり、同じ千歳烏山にある、これもおなじ和そばの有名店“加賀”(03・3326・1108)の客になった。
ここもそばには定評がある店だが、私が気に入っているのは、古来の和そばはもちろんのこと、季節の野菜やシーフードなどを織り込んだ季節季節の変わりそば。アイディアそばとでもいうべきユニークさで、ときには中華の五目焼きそば風、あるときはパスタ風、あるときは、と目と口を驚かせてくれる。
この日の変わりそばはイカ、エビを夏野菜とともにさっと炒めた夏海鮮そば。偶然ではない。電話で変わりそばの内容をチェックして出かけただけのことだ。
これもまた従来の和そばではない。醤油味なので中華っぽいが、どうしてもイタリアンにこだわりたい私としては、ソバ・チャイニーズ、いやいや、イタリア語で“ソバ・チネーゼ”か。いや、それでは中華であることに変わりはないので、材料からかんがみまして”ソバ・スカンピ”または“ソバ・カラマーリ”はどうか。スカンピはエビ、カラマーリはイカ。この勝手なネーミングで、和そばはイタリアンに変身というわけだ。おいしさも増しました。
ちなみに若い、まだイタリア語も片言だったころ、かの地で安ワインにイカリング、小エビのフリットといった安価な食事をしながら、
「俺たち、スッカンピン・カラマワリだぁ」
などとはしゃいで遊んだものだ。関係ないか。
