WEEKENDLESS 10
わが日米ベースボール小史
野球場での観戦とは、こういうものだったのか。
アメリカでの大リーグ観戦では、客席のファンはもちろん大騒ぎをするし、突如トランペットが鳴り響いたり、相手チームへの悪口雑言もそれはひどいものがある。しかし、試合の大事なシーンでは、球状全体がシーンと静まり返り、息を呑んで見守っている。
ところが日本の球場では、ファンの多くは手に手に小さなプラスティックのバットや細長いゴム風船を持って、味方チームの攻撃のあいだ中、ひっきりなしにバンバン引っぱたき、選手の名を連呼するお仕着せの歌を歌い続ける。野球観戦にきたというより、大騒ぎの応援をしにきたといえるのかもしれない。要するに、一般ファンが野球そのものをよく知っているかどうか、の違いかもしれない。
とはいっても、日本風のお祭り騒ぎ応援風景もまた悪いものではない。
私の周囲は3塁側内野席ということもあって比較的おとなしい場所ではあろうが、それでも巨人ファンと阪神ファンが半々。喧嘩になれば面白いのに、と思えるほど近くに並んで坐り、それぞれ大騒ぎをしている。
中には応援というより、ただ騒ぐためだけに来たようなおやじもいて、
「やれー、やれー!」
「こらーっ、坐れ! 見えねぇぞ!」
「おーい、ねぇちゃん、ビールくれー!」
「前のおやじ
、おかずも食え!」
どうやら、弁当のゴハンばかり食べているひとがいるらしい。私のことじゃないな。私はちゃんとおかずとご飯、それに生ビールを、正しい順序で食べています。
というわけで、連休最後の日、東京ドームのデーゲーム観戦にやってきた。ヤクルトに3連勝して弾みをつけたい巨人と、今期大好調、前夜も中日相手にダブルスコアで勝った阪神。いい試合になりそうだと思っていた。
それにしても久しぶりすぎる東京ドームだった。
私が野球観戦に行く、というと、へぇ、という顔をするひとが多い。イメージが合わないというのだ。ワインだのオペラだのルネッサンス美術だのいっている人間が、コカコーラでハンバーガーを食べている。そんな印象なのかもしれない。
しかし、実はかなり熱心な野球ファンであった。娯楽といえば野球しかなかった時代の東京っ子の常として、ガキのころから巨人ファン。電車を乗り継いで後楽園球場、神宮球場とよく通ったものだ。おとなになり、というか、遊びと趣味に生きようとし始めた40歳代後半になると、周りにいた若い編集者、カメラマン、画家、デザイナー、役者などを集めてクラブチーム“クワイヤ・ボーイズ”を主宰しオーナー監督とした遊んだ数年間もある。まだ土の球場だった後楽園でも、西武球場、横浜スタジアムでも戦った。
東京都の大会でいいところまで行ったんですよ。
そののちアメリカに住むようになり、日本のプロ野球とは当然ご無沙汰。そのかわり、カリフォルニアにいながら、ニューヨーク・ヤンキースを応援するという変則ファン。テレビ放映も少なく、欲求不満の募る何年間ではあったが、やがてニューヨークに居を移してからは、晴れて、堂々と、大威張りで、ひんぱんに(うるさいな)ブロンクスはヤンキース・スタジアムに出かけた。
だから私は、松井秀喜が来たから、イチローが活躍するから、あるいは松坂大輔がいいから、といったナショナリストファンではない。そのはるか以前からの大リーグ、ヤンキースを応援していたのだ。
別にひねくれていたわけではなく、松井、イチロー、松坂といった選手の日本での活躍ぶりをまったく知らないのだから、応援のしようがない。ドミニカやプエルトリコ、メキシコなどの出身選手とまるで変わりがない。
そうした意味で、私は野球ファンとして不幸な15年間を送ったのかもしれない。日本のことを知らないから、日本人選手が来ても、活躍しても喜べない。といって大リーグファンというにはキャリアが少なすぎる。
これは2年前に日本に帰ってからも同じことだ。ずっと続けての巨人ファンであろうとしても、知らない選手ばかりでいまいち気持ちの昂ぶりがない。いまや中堅とされる阿部慎之助、高橋由伸。あのころはまだ高校生ではなかったか。亀井、坂本。こんな子供がいるのか。
だから最近は、夜のプロ野球中継より、早朝のNHKBSの大リーグ中継を観ていることが多いが、それでも大リーガーたちがどんどん遠ざかっていく寂しさは否めない。
アメリカにあっては、中途半端な大リーグファン。日本では昔話ばかりの老ファン。アメリカの15年間、得たもの、学んだものは確かに多かったがそのかわり失ったものも少なくない、ということだろうか。
このような、ちょっと冷めかけた巨人ファンだったので、この日の巨人の惨めな負け方にもさして腹が立たない。セカンドエースで、上原故障中にあってはエースともいえる高橋尚成が3回ももたず、1塁小笠原は草野球クラスのトンネル。ピッチャーのアッチソンにまでタイムリーを打たれた。亀井、小笠原、ラミレス、ゴンザレスと2安打ずつ打ちながら4点しか取れないちぐはぐ振り。野球がヘタなんだな。やっぱり俺が、采配を振るうわけにはいかないから、もっと真剣に応援してやらなければいけないのかな、と反省しながら、残った弁当を抱えて南北線、都営新宿線で帰宅した私でありました。
ああ、疲れた。