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羽仁未紗 VIVA OPERA 3

 

Il Barbiere di 
Siviglia
 
     

もう30年あまりも前のこと、北イタリアの田舎町を歩いていた。暑い日で喉はからから。目指す教会はまだ遠い。そんなとき、街角の小さな店に出ていた看板。
 Barbiere
 セビリアの理髪師Barは当然バーのこと。Biereはフランス語でビールだ。大喜び、喉を鳴らして飛び込んだ。中には前掛けをしたおやじがひとり、ボンジョルノ。どうもようすがおかしい。そこは、ビールのバーでも居酒屋でもなく、なんと床屋であった。ま、長旅の途中で髪もいい加減伸びていたので、さっぱりと刈り上げてもらったのだが、考えてみればわかること。英語にすればそのままバーバーではないか。まだイタリア語のあまりできないころのエピソードだ。オペラ『セビリアの理髪師』を観るたびに、この恥ずかしい思い出がよぎる。   

セビリアの理髪師

 

セビリアの理髪師オペラ史上最高の喜劇といわれる『セビリアの理髪師』は、ボーマルシェのスペインのセビリアを舞台にした長編喜劇が原作で、モーツアルトの大傑作『フィガロの結婚』はこの続編ということだが、話につながりがあるわけではなく、連作の第1話、第2話といったものだ。
セビリアの理髪師 街の金持ちの遺児ロジーナは貧乏学生のリンドーロと愛し合っているが。後見人の意地悪爺さんバルトロにしっかり見張られていて、デートもままならない。そこで町のおせっかい床屋のフィガロが出しゃばって、ふたりをめでたく結びつける。そして、貧乏学生のリンドーロが実はセビリアの理髪師アルマヴィーヴァ伯爵だったことがわかってめでたしめでたし。
 実に他愛のないおはなしだが、このシンプルさがかえってロッシーニのちょっと古風な作曲術にあいまっていい味わいを出す。
 続編(第2部)の『フィガロの結婚』は、これに較べて登場人物たちが複雑に絡み合いすぎ、浮気セビリアの理髪師話や因縁話、遺産問題が入り乱れ、初めてのひとにはストーリーがよくわからない。これは天才モーツアルトが才に任せ、才を躍らせたための弊害で、音楽そのものはすばらしいがオペラとしてのドラマ性をかえって損なっている。才におぼれる、といったところだろうか。
セビリアの理髪師  といって、『セビリアの理髪師』のロッシーニに才がないかといえばとんでもない。
セビリアの理髪師 “フィガロフィガロフィガロ”と自分の名前を連呼する「おれは町のなんでも屋」も愉快な歌だが、アルマヴィーヴァ伯爵の朗々たる歌唱は、男声ながら超高音の3点ハを含む高度なコロラトゥーラの難曲。
セビリアの理髪師 ロジーナは本来コロラトゥーラ・コントラルト(メゾソプラノ)だが、ひとによってはコロラトゥーラ・レジェロ(ソプラノ)で唄うこともある。それによってオペラの雰囲気ががらりと変わるので、いくつもの『セビリア』を聴いて較べてみるのも面白い。
セビリアの理髪師 コアなオペラファン向きの名作といえようか。
 ただ、このオペラの有名な序曲は、実はロッシーニが前に作ったオペラ『英国女王エリザベッタ』序曲のまったくの流用。ロッシーニさん、手を抜いたかな。

 

セビリアの理髪師    セビリアの理髪師

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