
Tosca
わたしの家のいくつかの壁にオペラのポスターが貼られている。どれもがイタリア、ニューヨーク、ウィーンなどのオペラハウスを訪れたときにショップで購入してきたもので、それを眺めるだけでそのころの旅を思い出して懐かしく楽しくなるのだが、家の中で一番目立つところ、お客さんが来て最初に目にはいる場所、玄関のドアを開けた目の前の広い壁に貼られているのが、ミラノのスカラ座から持ち帰ってきた「トスカ」のポスター。

いくつもあるオペラの中からなぜこの「トスカ」がわが家の一等地を得ることができたのか。そこにわたしの「トスカ」に対する熱い思いがある。いや、熱い、ではなく、静かな思い、といったほうがいいのかもしれない。
ジャコモ・プッチーニは数々のオペラを作曲しており、そのほとんどが世界的なヒットをみた成功作ではあるが、中でも「トスカ」がいちばん心を豊かに、安らかにしてくれる気がする。
たとえば古代のシナを舞台にした「トゥーランドット」、誰も知らなかった東洋の日本を描いた「マダム・バタフライ」、新大陸アメリカの「西部の娘」、やはりアメリカに流されていく「マノン・レスコー」など、多くがエキゾティシズム、異国趣味を狙った、悪くいえばこけ脅かしな一面が感じられる。
「ラ・ボエーム」でさえもパリの下町という“異国”を描いている。そこがヒットメーカー、プッチーニたるゆえんでもあるのだが、この「トスカ」に限って、珍しいほどにオーソドックス。
イタリアは18世紀のローマ。歌姫トスカと若い画家カヴァラドッシの恋物語。
脱獄してきた政治犯の友人をかくまったために投獄され、死刑に処されるカラヴァドッシに、あくまでも従って自らも命を絶つトスカ。イタリアのほとんどのオペラ作家が手掛けたこのようなテーマ、ストーリーをプッチーニが選んだことに興味がわくし、またそれだけに、音楽ならだれにも負けないという絶対的な自信があったのだろうとも思う。エキゾティシズムに頼る必要はない、という。
第1幕でカラヴァドッシがうたう「妙なる調和」、第2幕のトスカ「歌に生き、愛に生き」、第3幕、カラヴァドッシの「星も光りぬ」はあらゆるオペラの中でもぴかいちともいえる美しい曲。これに続くデュエット曲「優しい手よ」も涙ぐみたくなるほど美しい。
商売人といわれるプッチーニが作曲家としてのみ勝負し、そして勝ったこの作品のポスターがわが家の玄関を飾っているわけがおわかりだろうか。
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