
DON GIOVANNI
ドン・ジョヴァンニ。ドン・ファン。いうまでもなく希代の色事師。18世紀のヨーロッパを舞台に次から次へと女性を追い求め、かき口説き、その寝室に忍び込み、その毒牙にかけた女性の数は数え切れず。体調がいいとき、気分がいいとき、いい女がそこにいるとき、この色事師は休む手を見せず、ときにはひと夜に3人も4人もに夜這いをかけるというタフネスぶり。ついて旅している従者レポレッロは、見張りをさせられ、さらには口説きの手伝いをやらされ、もう寝る暇もないよ、とぼやきまくっている。
ドン・ジョヴァンニがいかに相手構わずで、手当たり次第かを、レポレッロの愚痴のような自慢のようなアリア「カタログの唄」から聞いてみよう。
口説き落とした女性の数は、イタリアで640人、ドイツで231人、トルコで91人、フランスで100人、スペインで1003人。合わせて無慮20065人。その上さらに記録を伸ばすべく今宵もその魔の手を伸ばす相手は街の騎士長の娘ドンナ・アンナ。
ところが寝込みを襲われたドンナ・アンナは激しく抵抗して大声をあげ、諦めて逃げ出そうとするドン・ジョヴァンニをドンナ・アンナの父の騎士長が剣を抜いて追いかけるという修羅場になる。
騎士長が老いたりといえど武士の鑑なら、ドン・ジョヴァンニも色事師ながら立派な騎士。ふたりの戦いは若い色事師のものとなり、老騎士は哀れにもその場に命を落とす。
こうして嘆きのドンナ・アンナに恋人のオッタビオが加わって復讐を誓えば、昔ドン・ジョヴァンニの手にかかりやがては捨てられたドンナ・エルヴィーラが、未練たっぷりな仕返しを願い、。そんな事態にありながらドン・ジョヴァンニはどさくさの中で町娘のツェルリーナを口説いており、そこにツェルリーナの恋人のマゼットまで加わり、次々に自分の“おんな”を奪われてきた町の男たちも、ついにはドン・ジョヴァンニをリンチにかけようと立ち上がって、もう夜の街は収拾のつかない大騒ぎ。
そのそれぞれのカップルやら“被害者”やらが、それぞれいい歌をうたうところがいかにもモーツァルトらしいし、お話っぽくて楽しく、登場人物たちも、ドン・ジョヴァンニがレポレットと入れ替わって追手から逃げようとしたり、ツェルリーナが実はしたたかな女で、ドン・ジョヴァンニを利用してマゼットの気持ちを燃え上がらせようとしていたり、いろいろと楽しませてくれる。
最後には、殺された騎士長の銅像がドン・ジョヴァンニの乱行に制裁を加える形で鉄槌をくだし、“悪い男”はこの世から去っていくのだが、殺された騎士長が翌日にはもう銅像になっていたり、おかしなところもたくさんあって、そのことが「この物語は笑い話ですよ」と伝えている。
恋と情事に明け暮れていた当時の上流社会をからかっているとか、因果応報、悪は必ず滅びることをいっている、など、もっともらしい意見もあるようだが、単にこうした色事師に憧れていただけではないだろうか。自分もドン・ジョヴァンニのように生きたかっただけ。
そう考えるほうが面白いし、名曲の数々も生きてくる。深読みはつまらないですよ。
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