

「トスカーナ風とはどういった家なんですか」
このところ、こうした質問を受けることが多い。
いうまでもなく、このページやほかの場所で、“ゴヨーテー”について、イタリアはトスカーナ地方のイメージ、といい続けているからなのだが、読んでいるひとたちにとって、いまひとつイメージが湧かないようだ。
無理もない。
トスカーナ地方の中心都市はいうまでもなくフィレンツェだが、シエナという古い都市もあるし、海に面したルッカも歴史ある街だ。空港と斜塔で知られるピサも、大芸術家の生地ヴィンチ村もみんなトスカーナ。
フィレンツェとシエナのあいだに広がるキャンティ地方はワインの地だが、いくらか離れたモンテ・プルチアーノ、モンタルチーノのワインもいい。サン・ジミニアーノは多くの塔の街として観光客を集めている。サン・キリコは私の好きな田舎町だ。
もういいだろう。トスカーナといっても実にこれほど多くの顔を持っている。“トスカーナ風”がいかにいい加減な、おおざっぱな言葉であるかがわかる。
私自身も、トスカーナの農家、といってみたり、トスカーナのワイン蔵といってみたりで、イメージの固定はない。
道路のカーブに合わせてゆるやかなRを描く壁面は、淡いベージュというか、私はミエーレ“はちみつ色”と呼ぶ。それもフラットなきれいな壁ではなく、こてのあとが残っているようなラフな壁。
建物のふた方の庭は、まだ手をつけてもいないが、できれば数本の柑橘類、レモンかオレンジの樹を植え、その下にすっと丈高い季節の花を咲かせたい。この庭のイメージは、屋上庭園にも連動する。
室内は、アンティークな感じの白壁に白い床。そこに古めかしい家具がぽつんぽつんと。
こういうのが大体のイメージだが、これがトスカーナ風だという自信はない。私が、これがトスカーナだ、と思い込んでいるだけで、ひとによっては南フランスを感じるかもしれないし、あるいはコロニアル風だと思うひとがいるかもしれない。
だから、いい直そう。私が作っている家は、”サヤマ風・トスカーナ風・ゴヨーテー”であります。
というわけで、家具の話です。
京都の亀岡という街に住む家具の芸術家、西徹を発見し、大喜びで、いわゆるシャビー家具をいくつも注文したことはすでに報告済みだが、わが家に散在するはずの家具はそればかりではない。現在使っているソファやダイニングテーブル、ベッドなどの大型家具はアメリカから帰国したときに購入したイタリア製のものだが、それを葉山の家に持っていくかはわかっていない。
いまのマンションを売るなり貸すなりするときに、その家具類を持ち出すか置いていくかが未定なのだから、新しく買うわけにはいかないのだ。
持っていくとしたら、西徹のシャビー家具と、イタリア・モダンないまの家具とのミスマッチが面白いとも思うし、新しく買い直すなら、思い切って全体をシャビー風、クラシック風、田舎風にまとめてもいいかなとも考えている。
そして、買い直す、直さないは別にしても、いまのうちからいくつかの家具を見ていてもいいのではないか。
再び、というわけで、目黒に行ってきました。
目黒駅から山手通りの大鳥神社、油面を通って環状7号の柿の木坂まで、まっすぐの西に伸びる目黒通り。その大きな通りの両側に、1軒1軒は小ぶりだがそれぞれに趣向を凝らし個性を強調した家具店が、間隔を置いて並んでいる。オリジナルな制作家具の店もあれば、ファッションでいえばセレクト・ショップ、各地のユニークな家具を集めた店もある。アメリカやヨーロッパのクラシック家具、つまり舶来中古家具の店もあり、骨董店と呼びたくなる店もある。
江戸の時代、同業者を一か所に集め、家具店なら箪笥町と呼ばれる一画があったし、パリにも、確かバスティーユ、サンタントワーヌに近い数本の道に家具店が集中し、正しい名前があるのに、Reu de Meubl “家具通り”と呼ばれていた。目黒通りは、東京の“家具通り”でもあるのだ。
歩いて見ましたよ。9月に入ったというのに眼がくらむほどの暑さ、眩しさ。そぞろ歩く通行人など影もない。
ナビゲーター・マップ片手に大鳥神社から歩き始め、柿の木坂匠、CHARTER、BEADYアンティーク、STALEY‘S、Brunch+one。どの店にも客の姿はなく、ひとりふたりのオーナーか店員が手持無沙汰に坐っている。暇なせいか、買いもしない私に冷たい飲み物をすすめてくれるところもあった。ごちそうさん。
暑さにぐったりし、汗を拭き拭き歩いて、エアコンの効いた店に入ってほっとひと息ついて、少しおしゃべりし、聞き、そこのテーブルやベッドに触れてみて、すぐに次の店に行く。そんなことであっという間の2時間。
思うに、目黒通りの“家具通り”。1軒1軒がもっとあいだをつめてあってくれればいいのにな。それで漸く本当のReu de Meublになるだろうな。歩くだけで疲れてしまいます。
結局この日の“家具通り”歩き。なにひとつ決めることができなかった。決められない状況にあったというべきだが、いま使用中の家具の処遇が決まってから、もう一度、今度は涼しい中をじっくりと歩いてみる必要があるだろう。
やれやれといった気分で帰宅すると、面白い品物が届いていた。
送り主は、ずっと以前、私の書いたものを読んで、幾度かお手紙をくれた読者のひとり。
小ぶりな紙箱を開くと、封筒に納められた1通の手紙。
過日“とりあえずビール”なる文章を読み、ビールがお好きなことを知りました。ついては、私の知り合いが面白いビールを作りましたので、お送りします。気に入ってもらえればうれしいのですが。
という非常にやさしいオテマミ。要するに、地ビールの新製品、ということか。
箱を開けてみて驚いた。これがビールか。
ずんぐりむっくりの緑の瓶。ふたはぱちんと止める金属製で、横の逆C型の取手がおかしいし、それにしてもビールにしては、でかい。
同封のパンフレットを読むと、岡山にある宮下酒造が生んだ“独歩”という地ビールのひとつだそうだ。250cc、330ccなど数種類の“独歩”があるが、これだけはドイツから輸入の1リットルボトル。
「どうぞお試しください」
そういわれなくても喜んでいただくが、その前に冷蔵庫、冷蔵庫。どんなつまみが合うだろうか。
1リットル“独歩”が冷えるまで、シャワーを浴びて、着替えて、としながら思った。
地ビールというのも面白いのではないか。これまで、信州や北海道にいったときに面白半分に飲んだことはあるが、この際、各地の地ビールを取り寄せて、飲み較べてみてもいいかな。
こうした思いつきは、すぐに実行する私です。待て、次号!

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