


庭に関する試行錯誤
誰も待ってなんぞいなかったとは思うが、お待たせしました。
ようやく庭の話ができる。
葉山に越してきてからちょうど1年だが、あのころにもこのページで新しい家のことはずいぶん書いたし、葉山という街の、食べる店、飲む店。プーリーとドゥージー、2匹の犬の散歩の話、富士山の見える海岸の話など、幾度も報告した。
だが、新築の建物には当然ついているはずの、庭に関してはほとんどなにも触れなかったはずだ。
それもそのはず。あのころにはわが家の庭はまだできあがっていなかったのだ。一応仮のフェンスが囲ってはいるものの、本来庭であるはずの場所にはまだなんの植物もなく、むき出しの赤土地面があるばかり。
あちらこちらでよく見かけるでしょう。家建物は出来上がっており、新しい住人家族はもう暮らしているらしく、暖かな明かりが漏れだして、子供たちの声、犬の鳴き声なども聞こえているのだが、家の周囲は更地のまま。道路からすぐに家にはいっていけそうで、物騒だな、と思うような。
わが家もそんな状態で、だから庭に関してはレポートできなかった。
2か月ほどして、一応庭は出来上がり、腰高の低いフェンスの内側に数本のコニファーや丈の低い樹木。まもなくの春には花開く予定の植物が植えられた。
それでも私は庭に関しての文章は書かなかった。書くいとまもなく、例の大震災が日本に襲いかかってきて、前にも書いたように私の精神風景ががらりと変わってしまい、なにも書く気にならなくなった、ということもあったが、それを別にしても庭に関しては書きたくない。話したくない気分だった。
つまり、新しい庭が気に入らなかったのだ。
全体のレイアウトや、樹木草花のチョイスはガーデナーが充分に話し合って、ほぼ思いどおりにできていたのだが、それでも私たちは不満足だった。
狭すぎた。庭が小さすぎた。
わが家の敷地についての説明からしなければならない。
葉山の御用邸から約100メートル。ゆるやかな坂道を少し上がって、海抜10メートルといったところ。
目の前の公園は、もとは宮内庁の主馬寮、つまり厩舎と小さな馬場があり、その前、のちに私たちが住むことになる場所には細長い平屋が建っていた。主馬寮で働く宮内庁の職員の単身寮だったそうだ。それを取り壊して更地にし、国有地売却という形となったということだ。
単身寮あとの全体を買えるわけがない。180坪もあり、ざっと計算しても3億円近くする。だから細長いその土地を輪切りにする感じで3等分し、一番高い角地を私たちが買った。一番乗りのプライオリティかな。
建蔽率40%、容積率80%。だから、単純計算して36坪の庭ができるはずだった。充分に広い。
だが、御用邸近くということもあって特殊な風致地区規制が課せられており、特に角地なのでさらに細かく縛られる。建物は、公道から1・5メートル、隣家との境界からは1メートル以上下がらなければならない。
だからわが家の建物は、60坪の真ん中寄りに建てられねばならないことになった。家の周囲は、1・5メートル、1メートルの細長い空地。そのテープのような空き地を全部合わせて36坪。つまり、庭と呼ぶべき場所もテープ型となってしまった。
こんなんじゃ、庭とはいえない。
想定外のがっかりに、さんざん考えて、庭を広くすることにした。私たちが買った土地の残り3分の2はまだ売れていない。あと30坪ほど買い増すことはできないだろうか。
中に入った不動産業者、国有地を買い取った会社は、うーんと考えて、20坪だけなら、という。
もし30坪売ってしまうと残りは90坪。全体の半分。最も売りにくい広さだそうだ。だからといって2等分すると、それぞれが細長過ぎ、宅地には向かない。それにこの一帯、ひとつの宅地は50坪以上という決まりもあるので、そこでも引っ掛かる。
買い増し20坪なら残りは100坪。ふたつに割っても50坪でぎりぎりながらOK。そうしてくれませんか。
こうして私たちの庭は、細長いテープ状から20坪分、一応は広がりをもった庭へと変身することになったのだ。
ガーデナーも、これならやる気が出る、といった感じで大張りきり。CGまで駆使して新しい庭の予定図を作ってきた。
全体を低くて白いウッディなフェンスにしましょう。
コニファーはイタリアンな感じの糸杉にしましょう。
庭は季節の花でいっぱいにしましょう。
花のあいだの通路には、鉄道の枕木を敷きましょう。
薔薇のアーチを作りましょう。
柑橘類の実がなるようにしましょう。
そして、そして、
私がおーっと身を乗り出したのは、
花たちのあいだに大きな石を並べましょう。その石は、原産地エオリア諸島です。
エオリア諸島!
イタリアは南の外れ、シチリア島の北、ティレニア海の南部にY字型に並んで浮かぶ島々。その姿は、シチリアのメッシーナあたり、半島のカラブリアあたりから幾度となく眺め、訪れたことはないが懐かしさを感じさせてくれる島だ。
いいね、いいね。その石で行こう。
新しい庭の造成工事は、春から夏にかけて行われた。
満足していた。
だが、思いがけない問題が出現する。
自由に庭に出入りできるようになったプーリーとドゥージー。
花のあいだの枕木の小道を歩き回り、走り回ってくれればいいのに、反対に通路を避けて花のまん中を歩き回り、走り回る。
そこからは隙間の大きなフェンス越しに、私たちより数年前に越してきた隣の裏庭が丸見え。その裏に隣の奥さんの姿などが見えると、2匹は大喜びで駆け寄り、フェンスに顔を押し付けて大騒ぎ。これがしばしばで、おかげでせっかくの“花いっぱいの庭”には何本もの立派な“けもの道”ができあがってしまった。
そして再びガーデナーと相談。
目隠しをしましょう。
隣家に面したフェンスの上に細い鉄パイプを組み、グリーンのネットを張る。これなら見た目も悪くないし、隣は見えず、風通しもいい。
グリーンのネットが完成したのが夏の終わり。
葉山に来て9か月。これで建物も庭も、わが家はようやく完成に漕ぎつけたのであった。
だが、好事魔多し。
たった一晩で、せっかくできた庭が全滅する。
ああ神よ、我に艱難辛苦を与えよ(山中鹿之助)。じゃねぇよ。ったく。
